養育費回収の方法 NO.1(基本説明)

養育費回収の方法 NO.1(基本説明)

ここでは、養育費の回収方法について、説明します。2回に分けて説明します。
今回は、今までの養育費の回収方法の基本説明をします。
2回目は、養育費の回収方法について、改正された民事執行法が令和2年4月から施行されましたので、それについて説明します。

養育費は、離婚に際して、子供の養育のための費用として、取り決めます。
養育費は、子供を養育していない収入の多い親から子供を養育している収入の少ない親に対して支払うものです。通常、父親から母親に支払うのが一般的です。
母子家庭を中心に話します。

そこで、まずは、養育費についての取り決めが、実際に行われているかどうかのデータは、次のとおりです。
取り決めそのものが行われていなければ、養育費を支払ってもらえないからです。

平成28年、今から4年前の厚生労働省のデータです。おおよそのパーセンテージで示します。
平成28年現在、母子家庭で、養育費の取り決めをした割合は、43%。取り決めをしなかった割合は、55%。
取り決めをしないで、離婚した割合が半数以上いることになります。

取り決めをしなかった理由は、次のとおりです。
1)相手と関わりたくなかったから
2)相手に支払う能力がないと思ったから
3)相手に支払う意思がないと思ったから

ということで、離婚に際して最初から、養育費を相手に支払ってもらうことを諦めてしまった人が、半数以上いることになります。

まずは、相手と養育費の取り決めをすることが必要です。
取り決めをしないと、そもそも養育費を支払ってもらえませんよね。
離婚ではどうしても感情的になってしまいますが、これは、自分のためというよりも子供のために必要なことだからです。
相手との取り決めの方法は、法的に使えるものにする必要があります。
口約束や、ただ単に紙に書いたものは、いざ、養育費の支払いが滞った時に、回収できません。
この取り決めは、あとで話します債務名義というものにする必要があります。
養育費を強制的に回収するには、この債務名義が必要で、裁判所にこれを提出する必要があるからです。

この取り決めは、相手と穏便に話し合うことができるのであれば、公証人役場で公正証書として作成してもらうか、家庭裁判所の離婚調停で養育費の取り決めをしてもらいます。

もし、相手と会うことそれ自体が不安や危険があるであれば、また、家庭裁判所に出向くことが困難であれば、弁護士に依頼します。
この場合、司法書士は、家庭裁判所では本人の代理人、本人に代わって裁判所で話し合うことができないからです。
弁護士に直接依頼するまでの費用がなければ、日本全国主要都市には、法テラスがありますので、そこで弁護士を紹介してもらいます。
法テラスが紹介する弁護士の費用は、法テラスが決める手数料です。この手数料を法テラスが立て替えて先に弁護士に支払うので、この手数料を分割払いで、あとで法テラスに返済することになります。

次に、離婚に際して養育費の取り決めをしたにも関わらず、実際、養育費の支払いを受けていない人がいることで、母子家庭の子供の貧困率が高くなっていることが社会的な問題となっています。

なぜ、養育費の取り決めをしたにも関わらず、実際、養育費の支払いを受けていない人がいることになってしまうのでしょうか。
それは、養育費を支払う人の経済事情、その他、離婚後の状況の変化にもよりますが、養育費を支払う親の意思によることが多いと思います。これ、私の推測ですが、たぶん当たっていると思います。
養育費を支払っていくという強い意志があれば、多少、経済的に苦しくなっても支払おうとするものだと思います。
そもそも、養育費とは、相手の人に対するものではなく、子供の養育のために必要だからです。
子供を手放したからと言って、親子関係が切れるわけでもなく、親としては同居していなくても、親として子供を育てるという義務を果たさなければならないからです。
綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、子供に対する本当の愛があるのであれば、たとえ同居していなくても養育費は支払うものです。
ということは、養育費を支払わない親は、そもそも本当の愛がない、本当の愛を知らないということになります。
私は、養育費を毎月、きちんと支払っています。子供が20歳の誕生月までは。
あまり、心情的なことを言っても、養育費の回収ということなので、この辺でやめておきます。

そこで話しを元に戻して、なぜ、養育費の取り決めをしたにも関わらず、実際、養育費の支払いを受けていない人がいることになってしまうのでしょうか。
それは、養育費が支払われなくなって、相手から回収しようとすると、これを強制的に回収するしかありません。
強制的に回収するには、法律上の手続で回収することになります。
法律上の手続が必要ということは、これは裁判所で手続きをすることになります。

養育費に限らず、相手から強制的に回収する場合は、まず、法律上の根拠、相手から強制的に回収できるという根拠が必要となります。
これは、法律上、正式な書類ですが、これを揃えることも結構大変な作業となります。
専門的な知識がないと、難しいかと思います。
相手から養育費を回収するには、まず、第一関門として、これをクリアする必要があります。

この法律上の根拠は次のとおりです。
1)債務名義:債務名義の正本が必要です。
2)執行文(執行していいですよという文書)
3)債務名義正本(謄本)の送達証明書(審判書の場合は、確定証明書も必要です。)

順番に説明します。
1)債務名義:債務名義の正本が必要です。

債務名義の例としては次のものがあります。
家庭裁判所で作成した調停調書、審判書、判決、仮執行宣言付き判決。公証人役場で作成した公正証書
審判書などには正本と謄本があり、審判書などの謄本では、債権の差押えはできないので、もし正本がないのであれば、債務名義を作成した家庭裁判所で、正本を発行してもらう必要があります。

2)執行文(執行していいですよという文書)

債務名義によって、執行文が必要なものと必要でないものがありますので、債務名義を作成した家庭裁判所、公証人役場に確認の上、執行文が必要な場合は、執行文付与の申請をする必要があります。
判決については、家庭裁判所で執行文の付与を受ける必要があります。
調停調書については、それが養育費の支払を定めたものであり、それの請求債権とするのであれば、執行文の付与を受ける必要はありません。
公証人役場で作成した公正証書についても、公証人役場に行って執行文の付与を受ける必要があります。

3)債務名義正本(謄本)の送達証明書(審判書の場合は、確定証明書も必要です。)
相手が債務名義をの送達、受け取ったということを証明するものです。
相手が債務名義を受け取ったのであれば、養育費についての取り決めがあったこと、自分が支払わないといけないと、認識できるからです。
相手が、債務名義を受け取っていなければ、そもそも、相手が債務名義の内容を確認していないからです。

こういった法律上の根拠があって、そのうえで、裁判所に対して、強制的に回収したいんですけど、と言って申立てます。これが差押えの申立てです。

この差押えの申立てが、また、大変な作業となります。
この差押えの申立ては、相手の住所地の地方裁判所にします。

一番の問題は、この差押えの申立てでは、相手方から回収したい、相手の差し押さえるべきものを具体的に特定する必要があります。
差押えで難しいのが、この具体的な特定です。裁判所に対して、これを差し押さえてください、と言う必要があるからです。
申し立てられた裁判所としては、差し押さえるべきものが具体的に特定していないと、差し押さえようがないからです。
これは、養育費に限らず、ほかの差押でも共通していることです。

差し押さえるべきものとして、次のことを具体的に特定する必要があります。
1)預金の場合は、金融機関の名前、支店名、支店の住所(口座番号まで必要ありません。)
日本全国には、金融機関が沢山あり、金融機関の支店も沢山あるので、特定することが難しいのが現状です。
これは知っていれば簡単なことですが、知っていたとしても、お金が入っている口座を変えられてしまうと、まったく回収できないことになります。
2)ゆうちょ銀行の貯金の場合は、ゆうちょ銀行だけしかないので、支店名はあっても必要ありません。
ゆうちょ銀行は差押えがしやすいですね。
3)相手の給与を差し押さえる場合は、相手の勤務先の会社の名前と住所を特定する必要があります。
相手が退職して、別の会社に就職してしまうと、分からなくなります。

ということで、養育費についての差押を地方裁判所に申し立てるときは、相手の差し押さえるべきものを具体的に特定することが、今までは難しかったために、実際の回収ができない状態となっていました。

そこで、養育費の回収方法について、改正された民事執行法が令和2年4月から施行されましたので、それについては、次回説明します。

改正のポイントは次のとおりです。
1)債務者の財産開示手続きが強化されたこと
改正前からあったことですが、相手を裁判所に呼び出し、裁判官の前で相手の財産を明らかにする手続です。
改正前はこれが緩かったのですが、これが強化されました。

2)第三者からの情報取得手続きの新設
相手の財産を知る手掛かりが簡単になったことです。裁判所や金融機関などが協力してくれることになりました。

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